月の“質感”を観る夜、観察という行為に宿る物語
2025/09/11
写真や動画で見る皆既月食と、望遠鏡で見る皆既月食の違いは「質感」だと思う。
これまで皆既月食になると「いい写真が撮りたい!」と、望遠鏡にカメラを接続して撮影に臨んでいた。
マニュアルで撮る写真は設定に試行錯誤が必要だ。その試行錯誤撮が楽しく夢中になり、きれいに撮れると嬉しかった。
イイネをもらいたいという欲もある。がんばったら褒めてもらいたいよね。
ところが3年前の月食の時、はじめて観察用の望遠鏡をセット し、接眼レンズを通して見る皆既月食の月に心を奪われた。
忘れっぽい私が、3年ほどたった今も、その時の記憶が鮮明に残っている。
満月はとてもまぶしい。その明るさに周りの星たちは、かき消されてしまう。
けれど、地球の影に入った皆既月食の月はとても暗い。眩しさを感じないほどに光量が減る。その状態で望遠鏡をのぞくと、月の周りに星がちりばめられているのが見える。
それはいつもの光輝くまぶしい月では見ることのできない光景で、月が宇宙にあることを感じる光景でもある。
そして宇宙に浮かんでいる感覚や立体感が表現された写真や映像にまだ会ったことがない。だからこそ、直接見るしかない。
今回の皆既月食は真夜中から明け方。
しかも週の初め。
月~金で働く会社員にはツライ日程である。天文系の友人たちは、有給をとってた。
しまった、そうすればよかった。
23時に娘と共に就寝、深夜1時半に起床。久しぶりに月食が見られる興奮なのか、同じベットで寝ているお嬢の寝相にやられたのか、熟睡ができないまま庭に出て望遠鏡をセットした。
今回は「観察」に注力。 肉眼・双眼鏡・天体望遠鏡で月食の姿をめぐった。
皆既月食は満月が地球の影に覆われる現象。肉眼では見えづらい半影月食にはじまり、部分月食に移行する。
私はその部分月食の状態が強く印象に残った。
図解・写真の説明ではピンとこなかった月が地球の影に覆われる様子。それが天体望遠鏡で見た時、はじめて実感することができた。
「ああ、あれは地球の影なんだ。弧のラインは地球のラインなんだ」
望遠鏡や双眼鏡では欠けた側も見える。そのため、影の質感がリアルに伝わってくる。
写真でも欠けた側を含めて撮影することも可能だけど、きっと目で見ている感じとは違うものになるだろう(明るい側が白飛びする)
そして三日月や半月だと良く見えるクレーターが、ほぼ見えなかった。観察することで改めて気づいたことだった。
写真で「見ること」と、実際に「観ること」の違いだなと思う。
少しずつ影に覆われていく姿を見ていると、いつしか輪郭の一部が赤く染まりはじめた。
地球の影に隠れるとはいえ、太陽からの光もわずかだけ届く。そのわずかな光は大気で散乱されにくい赤色の光のため、月は赤黒く照らされる。
そんな染まった月を肉眼、双眼鏡、望遠鏡で見て、少しずつ色味が違うことに気づいた。
一番薄く感じるのは天体望遠鏡。一番赤黒く見えるのは肉眼。
月は周りに建物があると、目の錯覚により大きく見えるらしい。
その日、わたしはお隣の家の屋根の上にある月を見上げていたけれど、皆既月食中の月はとても小さく見えた。
光の量のせいだろうか。
天体望遠鏡でみる皆既月食は、前回の時よりも浮遊感が薄かった。
周りにちりばめられた恒星の数量の差だろう。
調べてみたら前回はおうし座周辺、今回はみずがめ座周辺。
なるほど、おうし座には明るい星や星団がある、だから前回は星がたくさんの宇宙空間にいる印象が強かったんだなと思った。
しかも今回の方が月が暗い気がする。同じ皆既月食でも大気の影響度合いなどで、色や明るさの印象がずいぶん変わるらしい。
同じ天文現象でも、見えてくるものは同じじゃないんだな。
ほどなくして、月が元に戻りはじめた。赤黒さが消え、部分月食になっていく。
戻る月を見る前に仮眠をとろうと思ったけれど、やはり地球の影の存在に魅了されてしまった。
むしろ戻る月の時の方が、地球の影の存在を強く感じた。
月の肩越しに感じる地球の存在。
観察することで、感じることのできた気づきと感情。
写真に夢中になるのとは違った、穏やかで優しい皆既月食だった。
しかし、その日の仕事はしんどかった。でも後悔してない。
次の皆既月食は2026年3月3日の19時~23時ごろ。ありがたい。
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📝 執筆担当:伊藤うらら
(WhitePiece代表/星のソムリエ/星空イベントコンサルタント)
北神戸を中心に、天体観望会、ロケット教室などを企画・運営・講師をしています。
これまでに、のべ2000人超の方々が星や宇宙を楽しんでいます。
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